高橋芳朗と『魂のゆくえ』をめぐって
ピーター・バラカン 『魂(ソウル)のゆくえ』
帯文
「ソウル・ミュージック・ガイドの決定版、待望の復活!
◎最新CDガイド179枚」
曽我部慶一(ミュージシャン)さん推薦!
「昔この本でソウル・ミュージックを学びました。
英国のモッド所年だったピーターさんが黒人音楽にハマッっていったのと同じように、高校生だったぼくもそのディープなパラダイスに誘われてしまいました。
愛と尊敬にあふれた、永遠の音楽所です。」
(2008年 / アルテス・パブリッシング)
高橋芳朗にとっての『魂のゆくえ』
(TBSラジオ「ザ・トップ5(高橋芳朗×熊崎風斗)」2015年12月16日(水)19時過ぎの「洋楽選曲のコーナー」より)
今日はちょっと8時台からゲストに来ていただくPeter Barakanさんにちなんだ曲を紹介したいと思います。
ぼくが最初にPeter Barakanさんを知ったのは、ラジオDJでもブロードキャスターでもなく、音楽評論家としてのBarakanさんで、まさにこのTBSテレビで放送してた音楽番組「ザ・ポッパーズMTV」というのがあるんですね。
1984年から約3年反、TBSテレビで深夜に放送された伝説の音楽番組ですけど、ここでBarakanさんが司会を務めていて。
ちょうどぼくが洋楽とか聴き始めたタイミングでスタートして、番組を通じてホントにたくさんのすばらしい音楽を知ることができたんですけれども。
以降さまざまなメディアを通じてBarakanさんからすてきな音楽を紹介されてきたんですけれども、その中で最も想い出深く、かつ影響を受けたのが、Barakanさんの最初の著作になります、「タマシイのゆくえ」と書いて『魂(ソウル)のゆくえ』という、新潮文庫から1989年に刊行された、端的にいうとソウル・ミュージック/ブラック・ミュージックの入門書です。
ぼくは今まさにヒップ・ホップとかR&Bとかブラック・ミュージックをメインにして音楽ジャーナリストの仕事をしてるんですけれども、この本との出会いがなかったらちょっと現在の自分はなかったかもしれないという、ぼくをブラック・ミュージックの世界にひきずり込んでくれた1冊ですね。
ぼくはもともとロック少年だったんですよ。ブラック・ミュージックに関してすごく敷居を高く感じていて、なかなか入りこむことができなかったんですね。
というのも、ロックってオブラートに包まれている表現が結構あって、ブラック・ミュージックはそこにストレートに表現してくるところがあって、そこにちょっとした抵抗感があって。
どうゆうことかっていうと、ラブ・ソングを引き合いに出しますと、ロックのラブ・ソングは"I Wanna Hold Your Hand"というBeatlesの名曲がありますけど、「きみの手をにぎりたい」。そうゆう求愛の仕方なんですけど甘酸っぱいでしょ。
ブラック・ミュージックはMarvin Gayeってゆうシンガーの名曲のタイトルでいうと"Let's Get It On"、「乗っからせて下さい!!」みたいな。要は「ヤラせて下さい」みたいにいきなり飛びいくような感じで。
その求愛の表現が直接だったりして、そこにちょっと童貞くさいぼくはちょっと敷居を館s時手たんですけども。
この本を読むとBarakanさんももともとロック・ファンだったんですね。それからブラック・ミュージックに興味をいたいていったってゆう音楽変遷をたどってるから、この『魂のゆくえ』という本はロックファンからするととても共感ポイントが多いんですね。
だから非常にロック・リスナー・フレンドリーなブラック・ミュージック入門書といえると思います。だから童貞のぼくでもすんなり入り込むことができました。
この本はなにがすばらしいかって、これはBarakanさんの語り下ろしらしいんですけれども、全編ホントに平易な文章でつづられてるんですよ。
難しいことはなにひとつ書いてないです。多分小学校高学年ぐらいだったら完璧に理解できるんじゃないかな。
でも、なにひとつ難しいことをいってないし、小学生でも理解できそうなんだけど、ソウル・ミュージック/ブラック・ミュージックの魅力をバッチリとらえてる、魔法のような本なんですよ。
作品を紹介するような仕事をしててなにが落ち込むかって、自分がある対象についてさんざんこねくり回して、「やっとこさ結論らしきものにたどり着きました!!」ってゆう横で、子どもでもわかるような簡潔な解説で核心にサクッとたどり着いてる人がいたりすると、ホントにガックリくるといいますか、自分の頭の悪さを呪いたくなるんですけども。
ぼくは今、文章を書く時もラジオで喋る時もそうなんですけども、このBarakanさんのスタンスがひとつの指針になってるんですよ。
シンプルでわかりやすいし、興味のない人でも振り向いてっもらえるような紹介を心がけているつもりです。
だからこれまでの「トップ5」の放送でいうと、「熊崎くんにどうしたらAdeleを聴いてもらえるだろう、Bob Marleyを聴いてもらえるだろう」。「星野源さんのファンにどうしたらD'Angeloを聴いてもらえるだろう」。そうゆうことをいつも考えております。
だから「初心に返りたいな」とか、「そうゆう必要があるな」ってゆう時はこの『魂のゆくえ』をもち出してきて、読み直したりすることが結構多いですね。
だからブラック・ミュージック入門書ってゆう音楽的な意味でも、物書き的な部分でも自分の原点といえるような本といえると思います。
今日はこの本で紹介されてる数々のソウル・ミュージックの中から1曲かけたいと思うんですけど、Lorraine Elisonの"Stay With Me"ってゆう曲を紹介したいと思います。1967年の作品です。
この本が出た時って1989年なんだけど、ちょうどアナログからCDに移行する過渡期で、その影響もあってここに掲載されてる曲で結構入手しづらい音源があったんですね。
これもそんな曲のひとつで、これはBarakanさんがソウル・ミュージックの歴史のOne HItWonderってゆう、一発屋のヒット曲の中からお薦め曲を紹介してるんですね。
これが聴きたくとも聴けない身からするとめちゃくちゃ妄想をかきたてられる、そそる文章になってるんです。読みますね。
「ロレイン・エリソン 〈ステイ・ウィズ・ミー〉
1967年のこのドラマティックに展開するバラードにロレイン・エリソンなるなる女性が込める感情は、ほとんど狂気じみた感じです。彼女についてなにも知らないし、知る必要もないほど、コメントする余地を残さない強烈さだ」
「この女性が込める感情はほとんど狂気じみた感じです」って、結構聴いてみたくなりませんかね。
ちょっといってみましょうか。Lorraine Ellison "Stay With Me"です。
まさに絶唱という感じですけども、Lorraine Ellisonで"Stay With Me"聴いていただきました。Adeleのルーツに当たるような曲ともいえると思います。
この曲当時アメリカではあんまり売れなかったんですね。全米チャートで64位。中ヒットともいえないレベルだと思うんですけど、そんな曲を当時イギリスのロンドンに住んでたBarakanさんにどうやって届いたのかなって結構考えてたんですね。
そしたら2009年に公開された『Pぱいれーつ・ロック』ってゆう青洲映画/音楽映画があるんですけど、これは1960年代のイギリスに実在した海賊ラジオ局を題材にしたお話なんですね。
当時イギリスだとまだ民放ラジオが存在してなくて、しかも公共放送は規制が厳しくて、ロックみたいなポップ・ミュージックに割り当てられた時間が1日45分しかなかったんだって。
政府に反発した若者たちが船で沖に出て、そこから文字通り船から海賊放送として24時間ロックとかポップ・ミュージックを流し続けたんですって。
その『パイレーツ・ロック』の劇中でこのLorraine Ellisonの"Stay With Me"が流れるシーンがあるんですよ。
失恋した男が自分の想いをこの曲に託してラジオで流すんですけど、そのシーンを見て、この"Stay With Me"ってゆう曲の存在がグッと立体的になったっていうか、血が通ったというか。
「イギリスでこうやって庶民レベルで愛されてた曲なんだな」っていうのをわかって。さんざん読みこんだ『魂のゆくえ』がそのシーンを観ることによってまた新鮮な着もちで向き合えるようになりましたね。
そうゆうわけで、8時台にはいよいよPeter Barakanさんをお招きするわけですけど、この海賊ラジオの話なんかも時間あったらぜひ訊いてみたいと思います。
とにかく60年代のイギリスにいたわけですから、ロックや音楽の最高の時代を体験してるということですから、楽しみなんですけども。
ちなみにこの『魂のゆくえ』という本は2008年に増補改訂版としてアルテス・パブリッシングから復活されてますので、興味のあるかたはぜひチェックしてみて下さい。
(1989年 / 新潮文庫)
『魂のゆくえ』の裏話
ぼくが日本に来たのは74年で、音楽関係の会社に勤めました。その後フリーになって初めて書いた本が、89年刊の『魂(ソウル)のゆくえ』(現、アルテス・パブリッシング)でした。ぼくが企画したラジオ番組がきっかけで、執筆依頼を受けました。その頃、日本ではソウルを紹介する本がほとんどなかったんですね。そのとき、最も参考にした1冊がこの本でした。その後、2005年に日本語版が出ましたが、今も古びない普遍性を持っていて、僕には一生手放せない大事な本なんです
ピーター・バラカンさん(ブロードキャスター)と読む『スウィート・ソウル・ミュージック』
http://book.asahi.com/reviews/column/2015082300015.html
BOOKasahi.com 2015年8月23日(日)(構成:依田彰)より
ピーター・ギュラルニック 新井崇嗣訳
『スウィート・ソウル・ミュージック リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢』
(2005年/シンコーミュージック)
『魂のゆくえ』とはどうゆう本なのか
日本で出版されているソウルを扱った本は、専門家が専門家のために書いている印象がつよい。そんな本も必要でしょうが、ぼくはむしろソウルのことを全く知らない人にこの本を読んでもらいたいと思っています。本当はぼくが書くより、アメリややイギリスで素晴らしい本がいくつも出ているので、そのうちの一冊でも自分で翻訳して出せればそれでいいのです。でも、そうした翻訳所の読者は日本では限られてしまうとのことで、代わりにこの本がなんらかの形でその読者作りのための第一歩になれば嬉しいです。自分がこれまで読んできた英米の色々な本を参考にしながら、ソウルのストーリーを大づかみに語っていく中で、大きなテーマのようなものが見えてくるでしょう。
(中略)
前にも書いた通り、これは専門家のための本でもなく、ソウルの教科書でもありません。ソウル・ミュージックとともに何かがなくなった、とぼくは自身はこのころずっと感じていて、その何かはいったいどんなものか、その正体をちょっと考えてみたい、そう思ってこの本を書きました。
(ピーター・バラカン『魂のゆくえ(アルテス版)』、「はじめに」より)
ブラック・ミュージックのエロティックな歌詞について
Marvin Gaye
"Let's Get It On"
僕はエロティックな内容の歌詞が好きなわけではありません。バリー・ワイトが超低音で囁く誘惑の言葉を聴くと赤面しますし、プリンスのレコードで聴けないものもあります。最近のヒップホップでも下品としか思えない曲が多いですが、マーヴィン・ゲイのこのアルバム(続く『アイ・ウォント・ユー』も)だけは、なぜか別です。ずいぶnあとになって、枯れが17歳の少女と恋に落ちながら、彼女が実際にスタジオにきているときに、その気持ちをありのままに歌ったという話を読んで妙に納得しました。この真実味は、作為的に作り上げることができるものではないでしょう。
(ピーター・バラカン『ピーター・バラカンのわが青春のサウンドトラック』 「#38 マーヴィン・ゲイ」より)
高橋芳朗 presents
「本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界
馬鹿リリック大行進」シリーズ
(TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」内のコーナー「サタデーナイトLabo」より)
・2009年10月24日 「R&B 馬鹿リリック大行進」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8610838
・2009年12月19日 「R&B馬鹿リリック大行進!Part2」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9139438
・2010年6月12日 「R&B馬鹿リリック大行進」 Part3 ~The Final~
http://www.nicovideo.jp/watch/sm11044078
・2011年2月5日 「馬鹿リリック大行進 リターンズ」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13513056
・2013年12月21日
世界の"R師匠"ことR・ケリーが送る、 驚異のNEWアルバム『ブラック・パンティーズ』大特集!
(2015年12月21日 月曜日)